香港で仕事をしていた時のこと。
ミッシェルという女性スタッフが 私の会社で働いていました。

彼女は、顔面に障害を抱えていました。
鼻はプレス機で押さえつけられたかのように
頬と同じくらいの高さまで 平たく横に引き伸ばされ、
鼻も口も 30度くらいの角度で弓なりに曲がり、
頬も変形していました。

そのため、話す言葉も 口の中でこもってしまい、
非常に聞き取りにくい状態でした。

彼女に 最初に出会った時、私はまだ20代。
人生経験も、仕事の経験も少なく、判断能力も今よりは劣っていました。
当時、香港の景気はとてもよくて、
私の会社も人手が足りなく、社員を増やさないといけないものの、
なかなか良い人が見つからない。
そんな中、面接に現れた女性がミッシェル。
彼女の年齢は 21歳だったと思います。
身長は 175㎝で すらーっとして、とてもスマートなのですが、
恥ずかしい話、彼女の顔を 直視できませんでした。
なんだか、見てはいけないもののようで。
内心 少し動揺していました。

面接中も 何を話して良いのかわからず、
気持ちが落ち着かず、
早々に、切り上げようとしていた時、
彼女が『見てほしいものがある』と言って、
自分のバッグから 取り出したのは、彼女が取得した資格の証書。
驚いたのは、その多さ。
今まで たくさんのスタッフと接してきましたが、
こんなに多くの資格を持っている人を
後にも先にも、見たことがありません。

一つ一つ その資格の内容と、
どのくらいの期間、勉強したのか?
説明してもらいました。
なかには、1週間の受講とテストで取れる資格もあれば、
何年も 夜間の学校に通って取得したものなど。
積み重ねると その証書だけで、厚みが何センチもあり、ずっしりと重みがありました。

外見で判断されると、どうしても他人に劣ってしまう為、
内面では人に負けないようにと努力した結果だと思います。

面接が終わってから、
わたしは 自分より 10年、20年 人生における先輩達に電話をかけ、
こういう顔に障害を持った女性を 会社に雇うということに対してどう思うか?
たくさんの人に相談を持ちかけたところ、
答えは YES/NO 半々に分かれました。

迷ったあげく、最終的にミッシェルを採用したのですが、
彼女は、持ち前の負けん気の強さを発揮し、
その後6年くらい、働いてくれました。

仕事は的確で早く、ミスはほぼ無く、知識も格段に豊富でした。
専門分野の事は、私も、他のスタッフも たくさん彼女に教わりました。

私がヨーロッパ出張中に、香港で問題が起こったことがあり、
彼女は、泣きながら
『自分のミスで起こった問題。 この問題が解決するまでは家に帰らない』
そう、電話ごしに話しかけ、
他のスタッフが帰った後も、深夜までかかって、
一人で解決しようとしていました。
何度も帰宅を促したけれど、彼女は私の言葉を聞き入れようとしなかった。
そんな 強い責任感も持ち合わせた女性でした。

彼女は高校を卒業後、複数の会社で仕事をしてきましたが、
どの会社でも、数か月と長続きはしなかったのですが、
私の会社では 6年も働いてくれました。
最初は 大人しい性格で、笑うことも無かったのに、
だんだんと打ち解け、
途中からは 上司である私をからかうほど明るくなり、打ち解けて、
たくさん笑うようになりました。

一緒に働いてくれている6年の間に、
彼女は2回の整形手術を行い、
それぞれ、1ヶ月ほど会社を休みました。
彼女の療養中は、残りのスタッフ全員で 手分けして 仕事をフォローしました。

本来、整形手術は 美容目的であれば
医療保険の対象外ですが、
彼女は、発声が困難な状態と判断されたため、
香港政府の保険で、手術費用は、ほぼ全額まかなわれたようです。
お尻のあたりの骨を採取し、それを削り
形を整え顔の中に埋め込むという手術だったと聞いています。

手術が成功して退院した日には、
スタッフ全員で お金を出し合って、大きな花束を送りました。
手術後は、ほとんどその障害が
わからないくらいに、美しい女性に生まれ変わりました。

彼女が一緒に働いてくれて、教えられた事は、
面接時、自分が直視できなかったことや、
外見の問題で 採用を迷ったことなどについての自らの不明、無知。

障害に負けず、マイナス要因をプラスに変えるほどの
彼女の前向き姿勢、強い精神が
逆に困難を踏み台にして、自らの未来を切り開いた。

健常者という言い方が良いのかどうかわかりませんが、
五体満足に、そして平和な日本という国に生まれてきた私たちは、
本来 いっそうの努力をしなければいけないのに、
ハンディを抱えている人たちに比べて
むしろ 甘えている部分が多いのかもしれません。

今なら、ミッシェルのような女性が面接に現れても、
能力や経験が 条件を満たしていれば、
迷わずに 採用できると断言できます。

むしろ、わたしはなんらかの コンプレックスを抱えながら頑張ってきた方を
採用するようにしています。
コンプレックスを持った人、間違いなく『買い』です。
そして そのコンプレックスを取り除いてあげる努力を 上司として行います。
前の会社で パワハラやセクハラに会っていた人であれば、
そういうことを心配しないで働けるようにしてあげる。
そうすると、その人は さらに力を発揮します。
良い意味での『倍返し』が始まります。

全ての事は、ミッシェルが教えてくれたことです。
自分の人生の一時期に、
彼女と一緒に仕事をしたことは、私の誇りです。